日本人が不幸である本質的な理由と解決策

日本人は不幸なのか

まず,日本人は不幸なのでしょうか,データは,Yes と言っています。

下に示すのは,今年 OECD が行った調査における生活満足度のデータを元に私が作成したグラフです。 日本は下から9番目ですが,下から1, 5, 7 位のポルトガル,ギリシャ,イタリアなどは深刻な経済危機にあることを考えると,かなり低い位置にあると言えます。

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次に示すのは,2013年にOECD が行った調査における自殺率のデータを元に私が作成したグラフです*1。日本人の自殺率は上から4番目であり,非常に高い位置にあります。

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生活満足度が低く,自殺率が高い国の国民は,不幸であると言えるでしょう。

 

なぜ日本人は不幸なのか

なぜ日本人は不幸なのでしょうか。結論から先に言うと,自尊心が低いためです。

 

自尊心(self-esteem)とは,自分の価値に関する,感情的な評価のことを指します *2。自己肯定感とも言えます。自尊心が高い人とは,自分の資質,能力などに自信があり,自分を肯定し,自分に満足している人のことです。

自尊心は多分に主観的です。例えば,自尊心の高い人は,自分は人に好かれ,愛され,人を惹きつけると思う傾向にありますが,他者による客観的評価と比べてみると,そのような主観的評価は客観的評価と相関しないことが分かっています*3

 

この自尊心は,生活満足度(life satisfaction)と強い正の相関を示すことが知られています。例えば,Ed Diener と Marissa Diener が 1995 年に 31カ国を対象に行った研究では,自尊心,つまり自分に関する満足度 は,お金や,友人,家族に関する満足度よりも生活満足度に影響することが明らかになりました*4。 

逆に,自尊心は鬱的症状(depressive symptoms)と強い負の相関を示します。そして,この相関は鬱的症状が自尊心の低下を引き起こすというより,低い自尊心が鬱的症状を引き起こすという因果であることが示されています*5

 

そして,日本人はこの自尊心が非常に低いのです。それは,下のグラフを見れば一目瞭然です。

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これは,David Schmitt とJüri Allik が 2005 年に53 カ国を対象に行った調査における自尊心のデータを元に私が作成したグラフです*6。見て分かるように,日本は53カ国中最下位であり,しかも次の香港との間にも大きな差を示しています。この傾向は,先の Diener & Diener (1995) においても確認されており,揺るぎないものです。

 

なぜ日本人は自尊心が低いのか

ではなぜ日本人は,自尊心が低いのでしょうか。その理由を知るためには,自尊心に関するソシオメーター理論(sociometer hypothesis)*7 を知る必要があります。

 

この理論はまず,他者に承認されたいと思う要求(以下,承認要求)を,食欲や性欲,睡眠欲と同じ普遍的な欲求であると見なします。その理由は,集団生活を送るように進化した人間に,承認要求が備わるのは自然だからです*8

なぜなら,他者に受け入れられたいと思わない個体は集団から排除されやすく,生存に不利であったはずだからです。生存に不利な個体の遺伝子は,進化の過程で淘汰されていきます。従って,人間には承認要求が備わるはずなのです。

 

この理論は,自尊心を「どのくらい承認要求が満たされているか」を示す指標であると見なします。これが「メーター」という名前の由来です。自尊心は,その人が他者に承認されていると感じるほど高まり,他者に拒絶されていると感じるほど低まるとされます。

つまり,自尊心は車のメーターのようなものです。人間は,車のメーターがEmptyに近づくと,ガソリンを補給しようと思いますが,同じように,自尊心が低くなると,集団に承認されたいと思うのです。その結果人々は,見た目を美しくしたり,能力や人の良さを示したりして,集団に受け入れられるように努めるのです。

多くの研究が,ソシオメーター理論を支持する結果を出しています。例えば,Jaap Denissenらのチームは,以下のことを明らかにしました*9。(1) 人々の自尊心は,他者と質の高いコミュニケーションをしたと感じた日に高くなる。(2) 他者と親しいと感じる人ほど,自尊心が高い。(3) 人々が友人とたくさん交流する国ほど,国民の自尊心は高い。

 

そして,日本人はまさに,承認要求が満たされていないために,自尊心が低いのです。下に示したのは,三番目の「人々が友人とたくさん交流する国ほど,国民の自尊心は高い」という事実を示すグラフです。

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日本(JP)は明らかに,人々が友人とあまり交流せず,自尊心も低い国として位置づけられます。さまざまな要因が考えられますが,戦後の急速な都市化によって人々が粒子化してしまったことや,長時間労働の慣習によって友人と交流する時間がとれないこと,などが大きな理由としてあると思います。

 

日本人はどうすれば幸せになれるか 

ここまでで,日本人が不幸なのは,承認要求の不満足により,自尊心が低いためであるとわかりました。では,日本人が幸せになるためには,どうすれば良いのでしょうか。

 

友人や家族を大切に

当然,根本的には,承認要求を満たせば良いということになります。ソシオメーター理論の提唱者であるBaumeister と Leary は,承認要求を満たすには,継続的に同じ他者と思い遣りに満ちたコミュニケーションを行うことが重要である,と述べています*10。従って,今ある友人や家族を大切にするのが最も本質的な解決策です*11。 

友人がたくさん必要なわけではありません。なぜならば,承認要求は食欲などと同じく,一度満たされてしまえば十分だからです。それよりも重要なのは,思い遣りに満ちたコミュニケーションが成立するような他者と,継続的にコミュニケーションをとることです。逆に言えば,お互いに無関心な他者といくら接しても無駄ということです。

 

自分を大切に

また,今ある自尊心を低めないようにする努力も大切です。例えば,自分の欠点や失敗が目に入ったときに,自己批判(self-criticism)するのをやめ,自己同情(self-compassion)するように心がけるのも有効です。

自己批判とは,欠点や失敗に対して,自分をネガティブに評価することです*12。一方,自己同情とは,そのような評価をせずに自分に優しく接し,「よくあることだ」と思って,自分を許すことです*13。簡単に言うと,友人が落ち込んでいるときに自分がとるであろう対応を,自分にもしてあげるということです。

これまでの研究で,自己批判傾向の高い人は自尊心が低く*14,自己同情傾向の高い人は自尊心が高いことがわかっています*15。また,自己批判は鬱的症状に結びつき,自己同情は鬱的症状を低下させることが分かっています*16

 

臭いものには蓋

また,Facebook ( FB)をやめてみるのも一つの方法です。FB には,他者の成功,見た目,地位,人気などに関する情報がたくさんあります。さらに,人々は FB で自分のポジティブな部分を選択的に自己開示します*17。その結果,FB はふんだんに上方社会比較(upward social comparison:自分より優れた他者と自分を比較すること)の機会を提供し,自尊心を低下させるのです*18。  

Twitter に関しては研究がほとんどないのでわかりませんが,日本人の使い方(e.g., 匿名性,自虐性)を見ると,FB よりは上方社会比較の機会は減るのではないかと思います。しかし,他者の「人気」などは フォロワーやお気に入り, RT の数を見れば感じられてしまうので,やはり上方社会比較の機会はあります。従って,使うとしても,あまり受動的には使わない方が良いかもしれません。 

合わせて読みたい

*1:2013年のデータを使用したのは,近年のデータが見つからなかったため

*2:Leary, M. R., Terdal, S. K., Tambor, E. S., & Downs, D. L. (1995). Self-Esteem As an Interpersonal Monitor - the Sociometer Hypothesis. Journal of Personality and Social Psychology, 68(3), 518–530. doi:10.1037//0022-3514.68.3.518

*3:Baumeister, R. F., Campbell, J. D., Krueger, J. I., & Vohs, K. D. (2015). Does High Self-Esteem Cause Better Performance , Interpersonal Success , Happiness , or Healthier Lifestyles ?

*4:Diener, E., & Diener, M. (1995). Cross-cultural correlates of life satisfaction and self-esteem. Journal of Personality and Social Psychology, 68(4), 653–663. doi:10.1037/0022-3514.68.4.653

*5:Orth, U., Robins, R. W., & Roberts, B. W. (2008). Low self-esteem prospectively predicts depression in adolescence and young adulthood. Journal of Personality and Social Psychology, 95(3), 695–708. doi:10.1037/0022-3514.95.3.695

*6:Schmitt, D. P., & Allik, J. (2005). Simultaneous administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 nations: exploring the universal and culture-specific features of global self-esteem. Journal of Personality and Social Psychology, 89(4), 623–642. doi:10.1037/0022-3514.89.4.623

*7:Leary et al., 1995

*8:Baumeister, R. F., & Leary, M. R. (1995). The need to belong: Desire for interpersonal attachments as a fundamental human motivation. Psychological Bulletin, 117(3), 497–529. doi:10.1037/0033-2909.117.3.497

原文では Need to Belong だが,この意味するところは単に集団に所属する要求ではなく,自分に対する affective concern を有する他者と継続的に交流する要求であるので,所属要求ではなく,あえて承認要求と訳した。

*9:Denissen, J. J. a, Penke, L., Schmitt, D. P., & van Aken, M. a G. (2008). Self-esteem reactions to social interactions: evidence for sociometer mechanisms across days, people, and nations. Journal of Personality and Social Psychology, 95(1), 181–96. doi:10.1037/0022-3514.95.1.181

*10:Baumeister & Leary, 1995

*11:下記リンクによると,1日6-7時間の交流時間をとるのが望ましいようです。

Social Time Crucial to Daily Emotional Wellbeing in U.S.

*12:Ehret, A. M., Joormann, J., & Berking, M. (2015). Examining risk and resilience factors for depression: The role of self-criticism and self-compassion. Cognition and Emotion, 29(8), 1496–1504. doi:10.1080/02699931.2014.992394

*13:Neff, K. (2003). Self-Compassion : An Alternative Conceptualization of a Healthy Attitude Toward Oneself. Self and Identity, 2(August 2002), 85–101. doi:10.1080/15298860390129863

*14:Ashby, J., & Rice, K. (2002). Perfectionism, dysfunctional attitudes, and self-esteem: A structural equations analysis. Journal of Counseling & Development, 80, 197–203. doi:10.1002/j.1556-6678.2002.tb00183.x

*15:Neff, K. (2003). The development and validation of a scale to measure self-compassion. Self and Identity, 2(793220055), 223–250. doi:10.1080/15298860390209035

*16:Ehret et al., 2015

*17:Dorethy, M., Fiebert, M., & Warren, C. (2014). Examining Social Networking Site Behaviors: Photo Sharing and Impression Management on Facebook. International Review of Social …, 6(2), 111–116.

*18:Vogel, E. a, Rose, J. P., Roberts, L. R., & Eckles, K. (2014). Social Comparison , Social Media , and Self-Esteem. Psychology of Popular Media Culture, 3(4), 206–222. doi:10.1037/ppm0000047