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自由を得るために,ぬるま湯を抜け出せ

ここ数日 MyNewsJapan というニュースサイトの「企業ミシュラン」という記事を読み漁っていたのですが,執筆されている渡邊正裕さんのキャリア論が本当にタメになって感銘を受けたので,ここでまとめたいと思います。とはいっても全てが渡邊さんの主張ではなく,受け売りと自分なりの解釈で 7:3 くらいです。

日本の会社は家族,海外の会社は機能

典型的な日本の企業は,会社を「家族」とみなします。家族は最後まで面倒を見るべきなので,終身雇用が当然です。その結果,組織のピラミッドは巨大化します。家族の和を保つことが大事なので,成果よりも勤続年数で人々を評価します。このように,終身雇用,巨大なピラミッド構造,年功序列賃金という特徴が生まれます。

一方,海外の企業は,会社を「機能」とみなします。目的を達成するための機能に過ぎないので,当然能力のない人々は解雇します。その結果,組織のピラミッドは平面化します。機能を果たすことが大事なので,勤続年数よりも成果で人々を評価します。このように,非終身雇用,平面的な組織構造,成果主義という特徴が生まれます。

日本の雇用システムは,国際的にはかなり特殊なのだと思います。最近いろいろな国の友人(アメリカ人,マケドニア人,インドネシア人,台湾人)に,終身雇用・年功序列の話をしたのですが,全員驚いていました。「普通どのくらい同じ会社に勤めるの?」と聞くと,インドネシア人は「多くて15年」,台湾人は「だいたい5年」とのことでした。

日本型雇用システムの崩壊

ただ,日本型雇用システムは,崩壊する方向にあります。大きな理由は,金融の自由化・グローバル化です。

金融の自由化・グローバル化によって,自分のいる事業部または会社全体が,外国の会社に買収されてしまうリスクが高まりました。買収した会社にはエサをやらない会社が多いので,買収のリスクは,給料が下がるリスク,リストラのリスクと同じです。

外資による買収を防ぐためには,株主への配当を増やして,株価が落ちないようにする必要があります。配当を増やすには,給料を減らしたり,リストラをして人件費を減らすのが最短ルートです。つまり,買収されなくても,同じことが起きるということです。

本来,株式会社は,株主のものであり,社員のものではありません。経営陣が,社員ではなく,株主の方を向くのは,むしろ当然なのです。かつては,外資による買収は難しく,会社は社員の方を向くことができていましたが,今は,資本主義の本来のあり方に戻ったということです*1

このように,グローバル資本主義の進展によって,経営陣が,社員より株主の方を向かざるを得ない状況が生じました。このような状況の中で,終身雇用・年功序列*2というシステムは,確実に崩壊へ向かっているのです。 

転職するには市場価値が必要

本来,会社に勤めるということには,会社が倒産するリスクや,出世競争から外されるリスクが付きまといます。ただ,今までは,給料が下がったり,リストラされるリスクは低かったわけですが,上で述べたように,その時代は終わろうとしています。

ということは,会社を辞めざるを得なくなる可能性,会社を辞めたいと思うようになる可能性が,高まっているということです。言い換えれば,転職せざるを得なくなる可能性,転職したいと思うようになる可能性が,高まっているということです。

そうなったときに,転職を成功させるには,自分という人間が,他の会社から求められている必要があります。つまり,労働市場における,自分の市場価値が高いということが必要です。

巨大なピラミッド vs 個人の市場価値

ただ,巨大なピラミッド構造の組織と,個人の市場価値の向上は,矛盾するのです。

巨大なピラミッド組織の特徴は,その意思決定プロセスの長さにあります。若手がリスクをとって新しいことに挑戦しようとしても,意思決定のチェーンが長ければ長いほど,それが拒否される確率は高まります。若手に権限や裁量がないということです。

その結果,若手は決まりきった業務 = ルーティンワークをこなす作業を,何年も続けることになります。とくに今は,大量入社した世代(バブル世代など)がピラミッドの上に詰まっているので,昇格が遅く,権限の移行は遅れがちになります。

さらに,巨大なピラミッド組織では,業績を上げた人よりも,社内の人間関係をうまく調整できる人,つまり,政治力の高い人が上に行く傾向があります。そのような組織では,仕事の能力よりも政治力を高めようとする動機が働いて当然です。

このように,巨大なピラミッド組織は,個人の能力開発を抑制します。決まりきった仕事ができるようになっても,決まりきった仕事ができる人はたくさんいるし,社内で政治力を高めても,社外に出たら何の役にも立たないからです。

その結果,会社を辞めさせられたのに,あるいはもう辞めたいのに,転職先が見つからない,見つかっても給料が大幅に下がる,ということが生じやすくなります。ぬるま湯に浸かりすぎた結果,自由がなくなってしまうのです。

自分の市場価値を高めるには

自由を得るためには,ぬるま湯を抜け出す必要があります。つまり,労働市場における,自分の市場価値を高めておく必要があります。では,どうすると市場価値が高まるのでしょうか。それを知るためには,市場価値とは何かを理解する必要があります。

自分の市場価値は,労働市場における需要と供給で決まります。そのため,自分の市場価値は,以下の条件が満たされたときに高まります。

① 自分が持っているスキルが貴重である(供給が少ない)

② 自分が持っているスキルが重要である(需要が多い)

逆に言うと,このどちらかが欠けると市場価値は下がります。つまり,スキルが以下のカテゴリに該当する場合です。

① 「おまえの代わりはいくらでもいる」系のスキル(供給が多い)

② 「そんなことできてどうするの」系のスキル(需要が少ない)

「おまえの代わりはいくらでもいる」系のスキルの代表は,決められたことをこなすだけの,ルーティンワークのスキルです。ルーティンワークの需要はたくさんありますが,ルーティンワークができる人もたくさんいます。従って,市場価値は低いのです。

「そんなことできてどうするの」系のスキルの代表は,自社に特有の人間関係の知識などです。その知識を持った人はなかなかいませんが,その知識を必要とする会社もほとんどありません。従って,これも市場価値は低いのです。

市場価値の高いスキルとは,「誰もが求めているけれど,できる人は少ない」スキルです。代表的には,医者です。高齢化で医者の需要が増えるのはほぼ確定的ですが,医者になるには,8年もかける必要があります。従って,医者の市場価値は高いのです。

このような「誰もが求めているけれど,できる人は少ない」スキルを,意図的に磨く必要があります。そのためには「本当に求めている人は多いのか?」「本当にできる人は少ないのか?」と冷静に判断し,ターゲットを絞る必要があるでしょう。

同時に「本当にやりたいと思えるのか?」「本当にできるのか?」を考える必要があるでしょう。いくら他者が求めているスキルでも,自分がやりたいと思えなければ身につかないし,自分には適していないこともあるからです。

一番手っ取り早いのは,若手に裁量・権限がある会社に就職することですが,典型的な巨大ピラミッドの中にいても,市場価値の高いスキルが身につくような業務へのアサインを希望したり,異動を希望することはできると思います。

まとめ

従来の日本型雇用システムは,終わりを迎えようとしています。日本型雇用システムを信じて,自分の市場価値を高めないのは,リスクになってきています。「労働市場にいるのだから,市場価値を高める努力をすべき」という,当たり前のことを意識せざるを得ない時代になりました。どのようなスキルを高めるか,冷静に見定める必要があるでしょう。

 

 

 

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*1:近年の格差問題も、まさにこの文脈の中で起きていることです。

*2:年齢が高い人が低い人より多く貰うという意味での年功序列は崩壊しないかもしれませんが,年をとると自動的に給料が高くなるという意味での年功序列は崩壊します。