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ロバストに幸せになる

昨年「幸せになるという最適化問題」という記事を書きました。

この記事の主旨は,幸せになるとは「自分の要求を最大限満たす」という最適化問題である,というものでした。人間はさまざまな要求を有しており,その要求の満足を最大化するところに幸せな人生がある,と主張しました。

基本的には,この考えは変わっていません。ただ,この記事を書いた当時は,要求満足の問題に関して「具体的にある条件を達成することで要求が満足される」というイメージを持っていました。しかしこの半年で,このイメージは間違いだと悟りました。

具体的にある条件を達成することではじめて要求が満足されるという信念は,その条件の達成を困難にするような状況に対して無力です。そのような状況において,条件が達成されていないことに常に不幸感を抱き続けることになるためです。

条件の達成が困難になる状況は現実にあります。例えばどんな容姿,性格,健康状態で,どんな時代,地域,家庭に生まれるかは,自分で決めることができません。また,どんなに努力しても,病気,怪我,失業,愛する人との死別,などの悲劇は起きます。

最適化の方法を考える際には,このような不確実性を考慮に入れる必要があります。具体的な条件の実現に完全に依存せず,ロバスト*1に幸せになる方法が必要なのです。

ロバストに幸せになる - 感謝すること

要求を満たすような具体的な条件の達成が不可能になるような状況の下で,人は幸せになれないのでしょうか。答えは否です。幸せは主観的だからです。人が幸せか否かは人が主観的に満足しているか否かで規定され,具体的な条件には依存しないのです。

主観的な満足度を高める方法は,まだ満たされていない要求に意識を向けて,その要求を満たすような具体的な条件を達成すべく努力することだけではありません。既に満たされている要求に意識を向けて,満足感を味わうのも満足度を高めます。

多くの場合,人は既に多くのことに関して恵まれています。その事実は,たとえ悲劇の中にあっても変わりません。悲劇から生まれる幸いもあります。そのような多くの幸いは,存在しないのではなく,気付かれていないだけなのです。

人が多くの幸いに気付けなくなるのは,既に満たされている要求に対して快楽順応(hedonic adaptation)してしまうためです。快楽順応とは,エモーショナルな環境の変化が幸せに与える影響が消えてしまう現象のことです。

例えば,宝くじの当選者の1年後の幸福度は普通の人と変わらない,という結果があるそうです。このように,国,地域,文化,年齢,性,民族,姻戚関係,収入,宗教などの環境的(circumstantial)な要因は,幸福度の 8 ~ 15 % 程度しか説明しないようです*2 

逆に言えば,この順応に対抗することで,既に満たされている要求から,幸せを感じることができるのです。そのための代表的な方法が,感謝することです*3(ここで言う感謝は,行動としての感謝ではなく,精神活動としての感謝を指します)。

感謝は「〇〇のおかげで〜〜」という形をとり,〜〜の部分では必ず「自分の何らかの要求が満たされていること」を確認します。つまり,感謝とは「自分の今の状況から満足を抽出する精神活動」なのです。この意味で,感謝は幸せと完全に直結します。

実際,週に1回の感謝が6週間後の幸福度を高めるという結果があるようです。ただ,あまりに頻繁に感謝したり同じことに感謝し続けると効果がないため,ある程度間隔をあけたり,感謝する領域(人間関係,仕事,健康等)を変えると良いそうです*4

具体的な条件を実現するために努力するのも大事ですが,そのような努力は悲劇に対して無力です。悲劇の中でもロバストに幸せになるためには,既にある幸せを味わうための感謝のような習慣が必要なのではないかと思います。

*1:外乱に対して安定的という意味

*2:Lyubomirsky S et al. 2005. Pursuing happiness: The architecture of sustainable change. Review of General Psychology, 9, 111-131.

*3:Lyubomirsky et al. 2005.

*4:Lyubomirsky et al. 2005.